大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和60年(行コ)99号 判決

≪証拠≫並びに弁論の全趣旨によれば、原告が主張する不起訴処分の理由告知請求の書面というのは「前略取り急ぎ左記要件のみ申し上げます。」で始まる昭和五七年一一月一八日付けの書簡体の文書(≪証拠≫)であり、これは翌一九日新潟地方検察庁検察官検事中島[金公]三に配達されていること、しかし同検察官はこれを不起訴理由告知請求として受理することなく直ちに原告に返送していることが明らかである。

思うに、刑事訴訟法第二六一条の不起訴理由の告知は、「嫌疑不十分」、「起訴猶予」等不起訴処分の直接の理由を端的に告知すれば足りるものであるところ、右(≪証拠≫)の文面を子細に検討するに、これには同条が引用されてはいるものの、右のごとき端的な理由告知の請求を超えて、不起訴処分をした同検察官に対し「特になぜそのように判断したか」につき通知してほしいというものであり、右部分はかぎ括弧でくくった上圏点まで付して要求する事項を強調し、更に「なお、御承知のとおり、被疑者、罪名が多いため、電話もしくは口頭では、聞き違い、聞き洩らし等の恐れがあり、必ず文書で明確に御回答下さいますようお願い申し上げます。」と念を押し、その上同法第二六二条の請求は同月二四日までにすればよいか、その日の確定日付けがあればよいかについてまで併せて回答を求めるというものであり、そのほか同証の他の記載及びその言回しをも彼此勘案すると、原告は不起訴とするに至った同検察官の判断形成過程の詳細な説明を求めており、したがって「嫌疑不十分」、「起訴猶予」という程度の理由告知ではおよそ原告の要求を満たすことにはならないものであると認めざるを得ない。そうであれば、同検察官が原告の右要求を不起訴理由告知請求としては受理せず、回答の限りでないとしてそのまま返送した扱いも十分に理解し得るところである。もっとも、原告の意図とはかかわりなく右の程度の理由告知をもって応じておけば何ら問題はなかったものであり、その方がより適切であったともいうことができる。しかしながら、同検察官は(≪証拠≫)の書面を握りつぶしたのではなく、直ちに返送しているのであるから、原告には、自己の要求が過大であることに気が付くなどして改めて不起訴理由の告知を請求する機会が与えられているのであり、したがって、同検察官の右の扱いを違法とまで断ずることは、いまだ早計である。

現に原告は、同月二二日新潟地方検察庁を訪れ口頭で不起訴理由の告知請求をし、その場で同検察官から本件告知書による理由告知を受けており、このことは本件告知書に方式違背のないことをも含めて後に説示するとおりであるところ、これは(≪証拠≫)の書面の配達後三日内のことであるから、右書面を不起訴理由告知請求として有効視するとしても、刑事訴訟法第二六一条所定の「速やかに」という要件を具備するものであり、同検察官には、不起訴理由の告知に関する限り、不作為又は遅滞の違法はないものというべきである。

もっとも、右不起訴理由の告知を受けるため原告は自ら検察庁に出頭するなどして費用を支出していることは、当裁判所もこれを認めるにやぶさかではない。しかしながら、同検察官において原告にかかる出費その他の損害を生ぜしめることを意図して殊更に右書面を返送したというのであればともかく、本件の全証拠によってもこれを認めることができない以上、この点においても、同検察官の所為には違法性はないものというべきである。

(賀集 上野 梶村)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!